私の場合はこのような身のまわりの現象が開発のヒントになっています。
こんなこともありました。
30歳前のころになりますが、W/Oエマルジョン(油中水型)を「安定」させるためにはどうしたらいいか、という研究に取り組んでいました。
もうかれこれ2年間近くも研究していたのですが、思うような結果が得られず悩んでいました。
そんなとき、たまたまおふくろがつくっていたクリスマスケーキの手伝いをすることになったんです。
溶かしたバターにシロップをまぜてバタークリームをつくることになり、必死で泡立てるのですが、力を抜くとすぐに壊れて分離してしまいます。
それを見たおふくろが「味の素を入れるといいわよ」なんていいました。
するとすぐになめらかなバタークリームが完成したのです。
そこでひらめいたのが、味の素=グルタミン酸ソーダです。
そこからアミノ酸を化粧品に配合する研究に取りかかりました。
これは「アミノ酸のゲル乳化技術」という当時、化粧品業界で注目されることになった新技術発見の裏話です。
アミノ酸が水の性質を変え、安定したエマルジョンができるメカニズムの解明に結びついたのです。
おふくろの手伝いから発見を得たこの乳化技術は、1976年にボストンで開かれた化粧品の研究者の世界大会で優勝したのですから、おふくろに足を向けては寝られないというものです。
科学者の正体ユニークな発明も壁にぶつかってこそもうひとつ、生活の中から研究のヒントを得た例を話しましょう。
S堂パーラーのコーンスープは非常においしいのですが、当時、持ち帰ることはできませんでした。
なぜなら瓶に入れると分離してしまうからです。
シェフからスープをご自宅でも召し上がっていただけるようにしてほしいと希望されて研究し始めました。
最初に食品に使用できる乳化剤を使ったのですが味がまったくダメなのです。
もちろんシェフの答えは不合格。
これもおふくろの「澱粉がいいよ」のひとことをヒントに、無事に商品化できたことがありました。
悩んで苦労している研究も、ちょっと違う角度からものを見るだけで、こんなに発見が生まれるのですからおもしろいものです。
これをセレンディピティー(偶然の発明・発見を生み出す能力)といいます。
このふたつに代表されるように、食品や料理など、じつは生活のまわりに何気なく存在していることにヒントはあるものです。
そうとはいえ、悩んでなければヒントやきっかけも転がってはきませんから、結果的には、努力なしで成功はありえない、ということを付け加えておきますが…日常の人と人とのつながりがあってこそ、新しいものが生まれるのであり、科学こそ、こうしたヒューマンな部分を根本から大切に考える、そうした新しい価値観が重要視されているのです。
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